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2008年9月26日 (金)

新国立劇場バレエ「ラ・シルフィード」

 新国立の上演記録より。まずはやはり、都さん。軽やかで可愛くて、本当に申し分ない。それと「儲け物」と思ったのは、逸見さん。お名前は常々伺っていたんですが、実は観たことがあるのは「ドン・キ」のガマーシュだけ。こんなに素敵なダンサーだとは思ってもみなかったので、嬉しかったです。

キャスト

シルフィード:吉田都  ジェームズ:ヨハン・コボー  ガーン:逸見智彦  エフィ:中村美佳  マッジ:豊川美恵子

 最初に目がいったのは、都さん演じるシルフィードの、ちょっと予想外の踊りでした。私が持っているシルフィードのイメージといえば、ふんわりと軽やかだけど、男性を惹きつけずにはおかない魔性をたたえた、斎藤友佳里さん。しかし都さんは、明らかに人外のものである軽さと、恋する少女のような愛らしさを兼ね備えていました。これもまた、男性を魅惑せずにはおかないものですが。斎藤さんのシルフィードは、ジェームズに魅せられて、逆に彼を誘惑するために、森から出てきたのかもしれない。だけど都さんのシルフィードは、夢見がちな性格で、恋に恋して森から出てきて、結婚式の準備をしている、ジェームズの家にやってきた。そして「この人が、花婿さんなんだ」と、じっと見つめていたんじゃないでしょうか。

 一方、ヨハン・コボーのジェームズは、これまた私の予想外の演技でした。爽やかな少年ではなく、ずっと男性的で、どこかエキセントリック。この物語は、きっとシルフィードが存在しただけでは起こらなかった。このジェームズは、最初からどこか、異界に引きずり込まれる要素を持っていたんじゃないでしょうか。彼自身は気付いていなかったけれど、シルフィードを見てしまったがために、その要素が芽生え出す。エフィが案じたのは、彼のそんなエキセントリックさの発露じゃなかったのかな。

 エフィは普通でしたね。放っておけば可愛い奥さんになるような、普通の村娘。気立てが良くて、誰からも愛されて。でも、あまりにも現実の生き物すぎて、異界を垣間見たジェームズには、もはや物足りないんでしょう。

一方、とても魅力的だったのが、逸見さんのガーン。逸見さんの踊りは、流石に普段は王子様をたくさん踊るだけあって、伸びやかで端正。この役には色んな演じ方があるんでしょうけど、逸見さんのガーンは、たまたまエフィに選ばれなかっただけの好青年。「ジゼル」のヒラリオンのような粗雑さは無く、諦めきれずに真心をつくしているんですね。一幕から既に、エフィは彼と結婚したほうが幸せになれそうな気配が充満しています。

現実から足を踏み外しつつあるジェームズと、好青年ガーンとでは、マッジに対する反応も全然違う。ジェームズは、ちょっと異常なくらい彼女を嫌いますし、ガーンは当たり前の哀れみを持って、貧しい身なりの彼女を遇することが出来る。

 マッジの豊川さんは、流石にベテランだけあって、雰囲気がありますね。この物語が悲劇として終わるには、シルフィードの恋、ジェームズのエキセントリックさ、最後に彼女の呪いが必要であること、よく分ります。

 一幕終盤から、異界へ向けて突っ走ってゆくジェームズの集中力は、本当に凄かったです。二幕のヴァリエーションも、何やら怖かったし。一方、都さんのシルフィードは、どうしようもないくらいに可愛らしい。彼女にとっては、きっと花婿さん=ジェームズなんですね。だから、花婿さんが欲しくて、ジェームズを森へ引き込んだ。でも、そこから先は何をしたいわけでもないから、今まで通り、楽しく遊んでいる。そして彼女は、あくまでも妖精。ふわりふわりと飛び回って、決してジェームズには触れられない。抱きしめるなんてとんでもない。それが結果的に、ジェームズをじらすことになってしまう…そして実は、この二人の心は、全然通い合っていないんじゃないか。お互いに、一瞬は幸せだったかもしれないけど、気持ちはまったく別のところにあったんじゃないか…そんな風に思います。

 それと二幕で印象的だったのは、やはりガーンの優しさですね。彼とエフィは、確固として現実の世界の住人。エフィは彼と結婚すればすぐにも幸せになれる。ジェームズのいないところで、物語は完結してしまう……そのことが、彼を観ているだけで、痛いほどよく分るんです。反対に、ちょっと精彩が無かったのは、背景のシルフィードたち。踊っている間はいいんですが、止まっている時が、何だか美しくないなぁと。そこまで要求するのは、我儘かもしれませんが。

 シルフィードの死の場面は…通い合うことの無かった二人の心が、ばっちり表れていたような気がします。彼女を我が物にしたい一心で、スカーフを巻きつけ、掻き抱くジェームズ。けれど、彼の見えていない彼の腕の中で、シルフィードは、あっという間に生気を失い、身を硬くして、羽根を散らせてゆく。目が見えなくなる演技も素晴らしかった。自信の無い足取り、何かを探るような手…「私の花婿さんはどこなの?おかしいわ、私は、この人を手に入れれば幸せになれる筈だったのに…」けれど、その「花婿さん」の手を取っても、シルフィードは安心することが出来なかった。そしてジェームズには、うろたえるしか出来なかった。やがてシルフィードは、仲間の妖精たちに連れられて行ってしまう。遠くには、ガーンとエフィの婚礼の音楽が聞こえる…

 このバレエは、普通の幕ものの約半分、一時間ちょっとの短い演目です。だから今まで、何やら物足りない感じがしていたんですよね。けれど、これは本当に密度の濃い一時間で、そうか、この物語には、こういう悲劇性もあるんだなと、目から鱗がばらばら落ちていきました。

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