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2008年5月12日 (月)

K-Ballet「ドン・キホーテ」

このプロダクションは面白い。初めて、タイトルが「ドン・キホーテ」でも許せる作品。

オーソドックスなドン・キが好きな人には微妙な作品かもしれないけど、プロダクションによっては冗談抜きでないがしろにされるこのタイトルロールを、これだけきちんと物語の中で生かしたのは、いい着眼点だし演出として非常に面白いと思う。

キャスト 

バジル:熊川哲也  キトリ:荒井祐子  ドン・キホーテ:ルーク・ヘイドン  サンチョ・パンサ:ピエトロ・ペリッキオ  ガマーシュ:サイモン・ライス  エスパーダ:スチュアート・キャシディ  メルセデス:松岡梨絵

熊川さんに言わせると、ドン・キホーテの人生は悪夢なんだそうです。確かに、居もしない理想の貴婦人を探して放浪するのって、ある意味最悪な人生かも。そして、この物語では、市井に生きる人々の日常の一こまと、そんな悪夢の一瞬が交差して、物語になると。

普通、ドン・キの冒頭って、既にどたばたしてるじゃないですか。それがこのヴァージョンでは、ドン・キホーテが悪夢に取り付かれるところから始まる。シンプルだけど全体のテンションを示すいい導入だと思います。

端的なのは夢の場面で、冒頭、ドン・キホーテの前に現れ、彼に恋の矢を射たキューピッドが、また出てくる。そこは風車が回り続ける暗い世界で、貴婦人もドリアードもキューピッドも、ドゥルシネア姫までもが、美しいけど無慈悲。彼は翻弄され続けるだけなんです。

ドン・キホーテは持ち前の義侠心で、結局はキトリとバジルを助けてくれるけれど、本当は何一つ満たされていなくて、だからラストで、またヴェールの貴婦人を追いかけて雑踏に消えていくんですよ。

キトリとバジルの物語は、とりあえず一段落するんだけど、ドン・キホーテの悪夢はまだまだ続く。交わったような交わらないような、微妙な位置で流れる二本の筋。一歩間違うと支離滅裂になるものを、絶妙な匙加減でまとめてあって、とても良いプロダクションでした。全体的にシックな色合いの衣装や暗い色調の装置・照明も効果的。何よりも、シーンの配置や全体の流れがコンパクトで、掛け値なしに良い演出だったと思います。

唯一惜しむらくはカメラワークで、せわしなく視点が動くので、全体のバランスやアンサンブルが見づらく、評価できないこと、かな。ナイフの踊りとかは、定点で見せてくれないと何も面白くないのに。

熊川さんは、流石に当たり役だけあって、慣れたもの。やんちゃで生意気で格好つけてて自信満々で、でも憎めなくて可愛いところもある、彼らしいバジルでした。そして踊りは、とてもよく制御されているんだけど、それでも「奔馬」という印象。回転の切れ味とか、タイトさ。ジャンプの爆発力、展開力。とてもエキサイティングでバジルらしいんだけど、無駄に暴れてはいない、素晴らしい踊りでした。やっぱり彼はバジルですよ。「シンデレラ」や「カルメン」よりずっと納得感がある。そして、踊りの勢いはそのままに、大人のダンサーになったなぁ、と思います(といっても私は彼は20代の頃の映像しか観ていなかったんですけどね)

パートナーの荒井さんも、おきゃんで可愛くて、でも実はちゃっかりバジルをおだてたりお尻を叩いたりして操ってそうな、しっかり者のキトリ。熊川さんとの相性も良かったと思います。

何よりもこの二人は、ちょっとしたディテールの仕草が可愛いの!ギターと扇子を持ち替えるところとか、駆け落ちして夜になって、いちゃいちゃして、さあこれから美味しいところ・・・と思ったら邪魔が入って、っていうベタな展開とか。

そうそう、とても細かいところが充実した作品でもあると思います。脇役が一人一人、生き生きしている。ドン・キホーテの気品と憂いのあるたたずまいはもちろん、サンチョ・パンサの道化た仕草も、徹頭徹尾おバカに徹したガマーシュとか。最後にガマーシュがお祝いをくれて、それをバジルがロレンツォに渡す、あの一連の流れもいいですよね!

個人的には、やっぱりドン・キは東バが持っているワシーリエフ版がベストですが、この熊川版も、それに匹敵する面白さがありました。

とりあえず今月は、WOWOWに入っていて良かった。

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